ベトナム農業新聞(6/18日付け)に「Nóng đền bù đất nông nghiệp:」という記事で、ベトナムにおいても、公共事業などによる立ち退きによる農地の補償が問題となっていて、農地の価格査定が合理的でないという意見が出されている。




ということで、開発による立ち退き問題について触れられていた。

 ベトナムや中国に限らず、日本でも、こうした立ち退き問題というのはあるわけで、農地を巡る立ち退き問題ということでは、かの「成田闘争」という形で今だに、解決されていない問題はあるわけです。

日本にもある立ち退き問題


 私は、成田の近くに住んでいて、まぁ、ちょっとした関係から成田市のいわゆる反対派農家が「占拠」していた農地を空港公団の依頼で管理するという仕事を毎年していていました。


 というのも、私がいた農業法人は、要は「反対派農家」の親派に近い会社だったので、身内に手出しはすまいという毒をもって毒を制す的な発想から、我が農業法人に管理の白羽が立ったわけです。
 
 そんな曰くつきの案件だったので、たかだが4~5町歩の管理に、これだけお金をいただいて良いんでしょうか?というような、非常に金払いの良いお仕事であったのを覚えております。

中国の立ち退き問題の現状


 そんなこともありまして、先日、NHKで中国の農家の立ち退き問題についてのドキュメンタリーを興味深くみておりました。

 「中国激動怒れる民をどう収めるか~密着 紛争仲裁請負人~」という番組ですが、中国の地方政府と土地開発業者が結託し、僅かばかりの補償金を農家に渡して農地を奪うというお決まりのパターンの問題です。

  

地方政府の役人たちが、こうした無法な土地開発をするのは、単に賄賂が沢山貰えるということもありますが、出世を急ぐ役人たちが、中央政府が地方政府に押し付ける経済成長の目標を達成するためには、こうした土地開発をするしかないという実情があるようです。

  経済成長の指標を上げるには、色々と方法がありますが、地道に製造業やサービス業の振興を行って産業発展をさせる方法と、もう一つは大規模なインフラ整備などの公共事業をすることでもこうした効果を得ることができます。

  そして、無駄とも思える過剰な公共投資を行い、実績を作った役人は意気揚々と中央に昇り、後には、膨大な地方債とゴーストタウンや誰も使わない道路が残されるわけです。
「世界最大の商店街」は今やゴーストタウン、不動産バブルのツケ 中国」(CNN2013・3・10)

  

ただ、こうしたやり方がいつもでも上手く行くはずもなく、中国はすぐにでも破綻するんじゃないかという噂が最近飛び交っておりますが、「中国「7月バブル崩壊説」ささやかれる 深まる債務の「闇」」(産経新聞2013・5・26)

ベトナムの立ち退き問題の現状


 ここまでは、中国のお話でありますが、同じ共産国であるベトナムは同じような問題を抱えている様に思いますが、ベトナムはやっぱ、どこか堅実なんですよ。

 「国号1号・国道14号拡張案件、資金不足で展開できず」(VIETJOニュース2013/06/05)なんていうニュースが出てましたが、立ち退きの補償金350億円が払えないので、中止しますっていう非常に慎ましい話なんです。

 GDPが12兆3000億円くらいあるベトナムでは、国家予算は2兆7000億円。 途上国のベトナムにとって350億円は巨額といえども、払えないという額でもないが、無いものしょうがない。

 

ベトナムには打ち出の小槌は無い。しかし、どうやら中国にはあるようなのだ。

中国が持つ打出の小づち


 中国の地方政府が公共事業投資のために「影の銀行」(シャドーバンク)から借金をしている総額は300兆円とも言われるが、中国では地方政府が公共事業をするお金が無くてもシャドーバンキングによって資金を調達し、公共事業ができてしまうという事情があるようだ。(産経新聞5・21) 

 言わば、打ち出の小槌で、中国版「サブプライムローン」とも呼ばれるものだ。公共事業をするためなら、国債や地方債で良いじゃないかと思ったりもするが、なぜ、「影の銀行」(シャドーバンク)なるものが暗躍しているのかは、私には分からないが、中国の経済成長の一つの推進力として考えられている向きもあるようだ。

 ベトナムにはこうしたシャドーバンクの存在は薄いため、公共事業をしたくてもできなかったということがあり、資金不足で止めますということが結構、普通にあるようである。

 ベトナムでも官僚たちの出世競争のために公共事業が行われることが多々あるわけですが、結局のところ、無い袖は振れないために歯止めが効いていたわけなのですが、中国の場合は、「影の銀行」(シャドーバンク)の存在によって歯止めが効いていないのだという。

 プラス言えることは、ベトナム人の方が、中国人よりお人好しで、どこか良心があるところなのだと思うわけです。
6月28日付けのベトナム農業新聞にこんな記事があった。
Mỗi năm, nông dân chỉ tiết kiệm được dưới 8 triệu đồng

つまり、ベトナムの農家は毎年、8trieu つまり、3万2千円ほど貯蓄に回しているという記事である。


 はて?と思う。

農家は収入の大半を貯蓄に回している?

 「2011年に、ベトナム農業科学研究所がベトナム南部におこなった調査によると農家の平均年収は440ドル ベトナム平均の一人当たりGDPの約1/3にとどまっているという。」
 このニュースから考えるとニュースをベトナムの農家は、その収入の大半を貯蓄に回していることになる。2011年から少しばかり農家の平均収入が改善して500ドル前後になっていると考えても、収入の6割を貯蓄していることになる。

曖昧な世帯収入と個人収入


問題は、この8tieuという数字が、農家個人なのか農家世帯なのかという問題なのであるが、、、
下記の記事をみても分かるとおり、

「2008年は各世帯で年間5,270万ドン(約2,635ドル)の所得しかなかったが、2010年には8,090万ドン(約4,045ドル)に増加した。
 平均所得が最も低かったのはQuang Nam省で1世帯あたり年間4,200万ドン(約2,100ドル)、これにLai Chau省の4,600万ドン(約2,300ドル)が続く。最高はLong An省の1億1,400万ドン(約5,700ドル)。ただこの所得は高いものではない。農家の各世帯には通常4~5人の家族がいるからだ。Khai氏によると、現在農村では、農家のあいだでも所得格差が広がる傾向にある。」
平均年収440ドルというのは、個人の話で、通常の世帯は4~5人の家族がいるので、世帯としては2000ドル前後の所得があるのが普通なのである。
 8tieu(3万2千円)の貯蓄が世帯だと考えると、それほど不思議はない。

農家の生活費はどれくらい?


   もし、一人当たりで8tieuもの貯蓄をしているなら、年間の生活費は2万円ほどになる。つまり、月に1660円、1日55円である。フォーが1杯でも40円くらいはする。
 はて、そんなことが可能であろうか?と考えてみる。

と思っていると、こんな新聞記事があった。
農家の月収は1人14万ドン2008年07月17日
「ニンビン省のある5人家族の稲作農家は毎年10トンの稲を生産している。経費を除いた純収入は720万ドン(約450ドル)。さらに200kgの豚を1年間育てても、販売利益は120万ドン(約75ドル)だ。
 つまり、この家の年収は840万ドン(約525ドル)、月収は70万ドン(約44ドル)で、1人あたりの月収は14万ドン(約9ドル)にしかならない。」
なんと、一人当たり1日30円前後で暮らしているのである。

じゃあ、一人当たり8tieuの貯蓄という可能性が無いわけでもないことになる。

ベトナム農家の裕福な暮らし


ところで、ベトナムの農家に関する大きな疑問というのは何かと言いますと、

 紅河デルタの農家は意外と裕福に暮らしていて、バイクが2台あって、家には30インチの液晶テレビがあるなんていうのもザラにあるわけです。

 私は、これまで年収が5万円前後しかない農家が貯蓄ができるはずがないと思っていて、そうした農家がなぜ十数万円もするバイクを複数所有できるのかが不思議でした。

 一人当たりで、年間3万2千円、あるい世帯当たりなら、年間12万円前後の貯蓄が可能なのであれば、バイクを2台所有するのは、それほど難しい話ではない。